二宮ひかる『リプレイ』 1995年 ヤングアニマル掲載

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 創作の世界では「処女作にはその人のすべてが詰まっている」という言い方をされることがあります。この言葉は漫画だけではなく、映画、音楽、小説などの世界でよく使われているので、そう思っている人は多いのかもしれません。でも、本当でしょうか? 公にした最初の作品とその人が最初に完成させた作品が一致しているとは限らないのに、そう安易に言い切れるものではありません。

 二宮ひかるは短編集を何冊か出版し、次いで長編『ナイーヴ』と『ハネムーンサラダ』『ベイビーリーフ』を描き、その後単発的に短編をいくつか発表しています。最初の単行本『誘惑』に収められた短編『リプレイ』は数ある二宮ひかるの短編の中でも完成度の高いものだと思います。

 ――風俗関係のライター兼カメラマンの木村は、取材先のイメクラで高校の同級生だった沢田さんという女子にそっくりの風俗嬢に出会います。しかし、その風俗嬢は木村のことをまったく憶えていませんでした。――

 男女の出会いが何度もあるのは少女漫画の世界の中だけです。実際は一度すれ違ってしまった男女が再び出会うことはまずありません。でも、そういう機会があったならどうするか、というのがこの短編の主題です。木村は高校生だった自分と彼女がそのまま恋人になっていたらというプレイを冗談めかして提案します。沢田さんそっくりの女性は木村が驚くほど役になりきって、高校生同士の出会いを演出してくれますが、木村はその姿にとまどってしまいます。

 人の心理を読むのが巧みな女と仕事には真摯な態度をとれる男の再会だったため、この短編の終わり方は明るいものとなっています。二宮ひかるの作品には男女の再会の場面が何度か使われています。『リプレイ』はその意味で二宮漫画の雛形の一つとしてある作品だともいえます。

 さて、処女作には作り手のすべてがこめられているのかどうか、それはその作家によるとしか言えません。しかし、わたしたちがその作り手の第二作以降を読むことは実際は多くありません。多くの新人賞で漫画家や小説家が毎年何十人とデビューしていますが、五年後に残っているのはその内の一握りだけです。男女の出会いと同じように、読者はその作り手に再会することはほとんどないのです。