影虎『迷宮の冒険者たち』comic zip連載

meikyuu
 90年代半ばから後半のCOMIC ZIPにはちょっと変わった漫画家が集まっていました。shあrp、撫荒武吉、CHOCO、田中浩人、肴耶珈暖、上連雀三平、影虎、満点星など、美少女漫画の範疇にはおさまらない、個性的な絵柄とマニア向けの内容の作品が毎月読めたものでした。この流れの中からハイエンド系(更科修一郎氏提唱の概念、いつかこの言葉が引き起こした論争にふれることもあるでしょう)という言葉が現れ、すぐに使われなくなったことを憶えている人もいるかもしれません。

 影虎『迷宮の冒険者たち』はその時期のZIPに不定期で掲載されていた作品です。そのため正確な掲載回数はわかりませんが、確か四回ほど読みきりが載ったように思います。怪物の潜む巨大な迷宮、その迷宮に挑む戦士、魔法使い、錬金術師、盗賊たちの戦いを断片的に描いた短編連作です。

 一読してわかるように、この漫画のモチーフとなったものはWizardryです。さまざまな種族と職業のパーティが、罠と怪物にあふれた迷宮にもぐり、隠された秘宝を求めて戦い続ける、そういうWizの基本設定をこの作品は借用しています。不定期掲載の上、話のたびに主人公が変わるので、細かい設定や人物関係はよくわからず、主となる話もあってないようなものです。

 この作品の端々にはWizardry好きの心理が表れていました。たとえば、階層ごとに異なる怪物、罠のかかった宝箱を慎重に開ける盗賊、怪物との戦いのために隊列を整えるパーティ、そういったリアルさとは異なるゲーム的なファンタジーが意識的に描かれていました。

 ファンタジー作品というのは、その世界を表現するために細かい描写を必要とします。戦時中でもないのに街中を鎧を着て歩いている人間が出てくるような作品(これは実際にあります)は論外ですが、虚構の中の現実感にはどこかで線を引かなければなりません。そうしないと、時代も地域も様式もばらばらの奇妙な世界ができ上がってしまいます。その奇妙さを避ける方法として、ゲームなどからそのまま設定を持ってくるというのも一つの手ではないかと思います。この漫画の世界はゲームと一緒ですよ、という一種の逃げでもありますが。

 『迷宮の冒険者たち』のように固有名詞や世界観の一部だけを借りている作品は他にもおそらくあるでしょう。著作権的には違法に近い行為かもしれませんが、ファンフィクションや同人誌のように露骨に借りものめいていないので、面白いものができる可能性は高いかもしれません。あるいは、将来的に作品概念の利用ですら違法となる可能性もありえます。自由と規制のどちらがいいのか、それを考える時期に来ているようです。