坂井久仁江『十年日記』ヤングユー2005年1月号

10yearsdiary
 十年日記というものを見たことがあるでしょうか。一日の記入欄が短冊形に並び、一冊で十年分の記録を付けられる厚めの日記帳です。この短編には二冊の十年日記が登場します。

――年末の帰省のバスの車中、高校生の頃から書き始めた日記を読み直しながら、過ぎていく年を振り返る男がいます。その隣に偶然座った女も男と同じ日記を持っています。男はすぐに女が高校の時の同級生であることに気づきます。なぜなら男がこの日記を書き始めた動機はその女にあったからです。――

 女性向けの漫画雑誌で男性が主人公であるというのは珍しくありません。その逆もしかり、とはいえ、男性雑誌に女性が視点の中心となる作品が載ると「少女漫画でやってくれ」というような感想が出るようです、しかし、この感想は的外れです。少女漫画では何十年も前から、描きたい人物の逆の性別の人物を語り手に据える技法を使っています。三人称で人物を客観的に見て、特に描きたい部分をより詳しく説明するために、少女漫画は男性の視線を効果的に用いてきました。

 『十年日記』は男性視点で話が進みますが、その目線を通して高校生の頃に憧れていた女性の今が描かれます。あまり幸せともいえない恋愛を経験して暗くふさぎこむ彼女に、うまく言葉をかけられない男。十年の歳月の重みを感じながらも、その年月の溝を乗り越えるために男は勇気を出します。

 少女漫画の重要なテーマの一つが「少女が大人になること」だとわたしは思っています。少女が素敵な大人の女性に成長する、恋も友情もそのためにあるとすら言えます。では、理想の大人になれなかったら? それでもやり直す機会はいくらでもある、というのが多くの少女漫画の結論です。おとぎ話や嘘ともいえない少女漫画の真実性はそこにあります。